この記事を書いている現在、ハーバード・ビジネス・スクール助教授ゴータム・ムクンダ氏は「インテンシファイア(増強装置)」という考えを提唱した。
インテンシファイアとは?
混沌とした今の世でリーダーシップを発揮するには?
これは生き残りをかけた重要な課題と多くの人々が気づいている。このリーダーシップを語る上で「インテンシファイア」は今後重要なキーワードになってくるだろう。
そもそも「リーダーの存在は重要か?」という質問に対して研究者の議論は分かれていた。偉大なチームはリーダー不在でも成功を収める。だが別の研究ではチームの成功の重要な要因は、カリスマ性のあるリーダーの存在だ。
要するに意見が分かれていた。その議論に一石を投じたのがゴータム・ムクンダ氏の研究だった。
その研究によってわかったことは、リーダーが根本的に異なる2つのタイプに別れるということだった。
第1のタイプ「ふるいにかけられたリーダー」
正規のコースで昇進を重ね、定石(じょうせき)を踏んでものごとに対応し、周囲の期待に応える「ふるいにかけられたリーダー」。トップの座に就くまでに十分に審査されてきているので、常識的で伝統的に承認されてきた決定を下す。手法が常套的なので、個々のリーダー間に大きな差異は見られない。このタイプはことを荒立てずに済まそうとする。
リーダーが及ぼす影響力はさほど大きくない。
第2のタイプ「ふるいにかけられていないリーダー」
正規のコースを経ずに指導者になった「ふるいにかけられていないリーダー」。会社員を経ずに起業した起業家、前任者の突然の辞任や暗殺などで突然担ぎ出された人など。突然トップの座に就いたのでシステムによる審査を経てきていないので、過去に承認済みなことや前例に基づいて決定を下すとは限らない―そもそも過去の承認や前例すら知らない。バックグラウンドが異なるので予測不可能なことをする。その反面、このタイプのリーダーが変化や変革をもたらす。ルールを度外視した決定や行動をするので、自ら率いる組織を破壊する場合もある。だが中には、少数派だが、組織の悪しき慣行や信念や硬直した体制を打破し、大改革を成し遂げる。このタイプはことを荒立てずにはいられない。
多大なプラスの影響を及ぼす偉大なリーダーと呼ばれるのはこのタイプ。
両者は根本的に異なる
「良いリーダーと偉大なリーダーの差は程度の問題ではなく、両者は根本的に異なる人間なのです」とムクンダ氏はいう。
第二次世界大戦直前、『ヒトラーはものわかりのいい人』と見ていた首相が失脚しチャーチルが首相になったのは、これまでシステムが締め出してきた規格外のカリスマ性のあるリーダーが必要な時代だったからだ。異端のチャーチルはそういう規格から大きく外れた、だがその時代の緊急事態に最も対応できるインパクトのある能力を備えていたからだった。
チャーチルはガンジーさえ危険視し、英国を脅かすあらゆる脅威を騒ぎ立てる臆病者という評価だった。英語で”Are you chicken?(おまえは腰抜けか?)”とは彼の代名詞でもあった。(チキン・リトル)だからこそヒトラーの暴走もいち早く見抜くことができたのだった。
ユニークな資質は、日頃はネガティブな性質、欠点と捉えられていながら、ある特殊な状況下で強烈な強みになる。そうした資質は、上記のチャーチルの偏執的国防意識のように、毒のようでありながら、ある特殊な状況下で本人の仕事ぶりを飛躍的に高めてくれるカンフル剤になる。
これを「インテンシファイア」(増強装置)と提唱した。
インテンシファイアが君の弱点を長所に変える
この概念が、多くの人の日頃はネガティブな性質、欠点と捉えられていながら、当の本人は「本当はそんなことないはず」と思える、いわゆるあなたの最大の弱点を、ライバルを蹴散らしあなたを頂点に引き上げる最大の強みにかえてくれる秘訣なのだ。